第29回 日本私立医科大学理学療法学会

講演

イブニングセミナー(22日 15:40~17:10)

眞渕先生 テーマ:「呼吸器疾患患者に対する理学療法のアウトカム分析」
眞渕  敏 兵庫医科大学病院 リハビリテーション部 主任
 呼吸器疾患患者に対する理学療法に目を向けてみると、呼吸理学療法は施術者の経験的側面の影響が強く、その効果について科学的根拠が不十分であるという批判が少なくない。しかし臨床現場において多くの医療者は、その効果を認識している事も周知の事実である。本法が有効な病態は限られており、その適応を明確に絞り込むことに難渋する。
 医療の質を考える上で、アウトカム(治療結果)は不可欠な要素である。ただし医療では、患者の個々の病態像が異なるため、アウトカムを考える上では、重症度を考慮した指標を用いることが重要となる。
 呼吸理学療法の一例としてacute lung injury(ALI)/ acute respiratory distress syndrome(ARDS)に用いられる体位呼吸療法について考えてみる。治療体位は腹臥位を基本とするが、病態や状況に応じて前傾側臥位を選択し、用手的呼吸介助を併用することで危機的な低酸素血症を回避することができ、急性期呼吸器疾患患者において効果的な酸素化能改善の手段とされている。
 酸素化能(P/F比;PaO2/FIO2)は、酸素化能の良さを表現する指標であり、150㎜Hg以下を重度、250㎜Hg以下を中等度、350㎜Hg以下を軽度障害とされ、理学療法施行前後の効果判定に必要不可欠な指標である。また、体位呼吸療法を終える基準として、①P/F比が300㎜Hg以上に改善した体位は中止する、②完全腹臥位、左右前傾側臥位の3体位間でP/F比に20㎜Hg以上の差がなくなった場合、③自発的な体位変換を始め、最もPaO2の悪い体位でP/F比が200㎜hgを超えて場合としている。
 理学療法の効果を判定するには、目的に対して指標(検査測定項目)を選択し、その変化から検討する。しかし、理学療法の具体的な治療手技・方法が千差万別あれば効果判定は困難となる。強調されるべきはエビデンスの質ばかりではなく、関係する医療スタッフ全員(医師・看護師・理学療法士・臨床工学技士など)の習熟と連携が是非とも必要である。的確な基準に基づく導入や正確に同期された理学療法は治療効果を高めるだけでなく、患者自身のQOLを向上させる意味でも重要である。呼吸という生命に直結するリスクをはらんでいるだけに、呼吸器疾患患者の理学療法の普及や適応がより慎重に推進されていくことで大きな成果をわれわれにもたらしてくれることを期待する。

特別講演(23日 13:00~14:30)

影近先生 テーマ:「リハビリテーションのアウトカム分析」
影近 謙治 金沢医科大学 運動機能病態学 リハビリ科教授 教授
 今まさに医療の質が問われる時代である。どうしたら医療の質を評価できるのか。1960年代にA.Donabedianが、医療は構造(Structure)、過程(Process)、結果(Outcome)の3つの視点から評価すべきであると提案し、これは現在までも用いられている。構造とは、病院施設、職員数などでこれはだいたいどの施設もクリアーできる。過程とは提供される医療内容(クリニカルパスなど)、結果とは過程で提供されるものの治療結果である。
 リハビリテーションにおいてアウトカム(帰結)研究は後遺症として永続的に残る障害に対してリハビリテーションアプローチがいかに病状に影響を与え効果的に関与しているかを明確にする上で重要な医療評価である。
 しかしアウトカムの結果がどのような過程(プロセス)から得られたかがわからなければ改善のための方法は見えてこない。そのため医療の質を高めるためには、アウトカムアプローチのみを強化するだけでなくプロセスアプローチも平行して進められなくてはならない。
 従来から医療の質を評価する臨床指標(死亡率など)に基づき、各病院の医療水準は定量的には比較できる。しかしリハビリテーションでは死亡にはいたらないが障害が残る患者を対象にするわけで、患者の主観的な評価(満足度など)に基づく患者立脚型のアウトカムが必要となる。集団としての計算値などと違って、患者個人レベルを評価するものである。つまり病気を物質レベルで評価するのではなく、病人という人間の心の中身を評価することが必要になった。
 リハビリテーションの特徴として、患者の障害に対して多面的なアプローチが必要で医学的介入のみならず訓練や学習技術、看護技術といった多くの関連職種の介入をうまく統合させることがリハビリテーションにおける帰結にとって大切な条件となる。それぞれの専門性を駆使しながらも他職種のアプローチについて理解と敬意を示し患者と関わらなければならない。
 今回は、リハビリテーション関連職種、特に理学療法士の皆さんにも知っておいていただきたいアウトカム評価法について話をする。

学会長講演(22日 13:10~14:10)

神戸先生 テーマ:「骨関節疾患患者に対する理学療法のアウトカム分析」
神戸 晃男 金沢医科大学病院 医療技術部 心身機能回復技術部門 技師長
 近年、あらゆる分野でアウトカムという用語が多用されている。アウトカムとは、辞典によれば、成果・結果を指す。すなわち、医療が提供された後、達成された成果または効果を意味する。従来、あらゆる分野での効果指標であったアウトプットの反省にたって、現在、用いられるようになった指標である。
 1990年代以降、医療の質が重要視され、アウトカムの評価は、アメリカから日本へ逆輸入されて再び注目を浴びることになった。
 一般に医療の質は、構造、過程、アウトカムの3つの側面から評価される。理学療法の分野においても、理学療法を提供した後の結果が患者にとってどれほど有益であったかを分析する必要がある。しかし、そのアウトカムにはいくつもの種類・段階があり、患者にとってどの程度有益かどうかを判断するには、そのアウトカム指標に依存する。また、アウトカム以外にエンドポイントの用語もよく使用されている。エンドポイントは、一次性と二次性があり、一次性(主要)エンドポイントは、それぞれの研究の目的となる主要な結果を評価する項目を指す。
 最終的に患者の満足度や生存率などが主要エンドポイントとして用いられることが多いように思われるが、仮に患者の満足度の結果を分析する場合、それに至る過程でのアウトカムの分析も必要であり、より効果的な理学療法を提供する場合においても重要と思われる。
 骨関節疾患のアウトカム研究では、クリニカルパスの有用性、満足度などをエンドポイントにおいているものが多くなってきた。また、従来から筋力、関節可動域、痛み、歩行速度、歩容、日常生活活動などの機能アウトカムや活動のアウトカムなどをエンドポイントとしていることも多く、これらの分析は、最終的には患者の満足度の向上につながり、必要不可欠な要素といえる。 以上のことから、再度、原点に返り理学療法のアウトカムを考える機会としたい。

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金沢医科大学病院キャンパス

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第29回 日本私立医科大学理学療法学会事務局

金沢医科大学病院 医療技術部 心身機能回復技術部門 リハビリテーションセンター内

準備委員長:中木哲也
E-mail:
reha-ct@kanazawa-med.ac.jp